365日のラブストーリー
「結局そこでたくさん食べてしまいそうな」

「いいんじゃないですか。前にあなたは『美味しいものを食べると心が満たされて、心が満たされれば人に優しくできる』と言っていましたし」

「言ったけど、でも……」
 前にそう言ったのは、半分くらいは言い訳なのだ。有紗は言葉を詰まらせたが、神長はそんな内心すら見越したように、柔らかな笑みを浮かべている。

「綿貫さんは俺に何も求めないんですね」
「求めるって?」

「……あなたがそういう人だから、今こうしているのかもしれませんけれど」
 話しながら自己完結してしまったのか、神長は瞼を下ろした。

 有紗は整いすぎた顔を間近で見つめた。相手を知ろうとすることで、自分自身をも知っていく。彼に敢えてなにかを求めようとする気にならないのは、一緒にいるだけですべてが満たされてしまうからかもしれない。

(神長さんと会うたびに、学ぶことばかり)

 たとえばこんな日々を積み重ねて振り返ったとき、いったいそこに何ができているのだろうか。未来を果てしなく先まで想像しても、幸せな景色ばかりしか思い浮かばないのはなぜだろう。
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