365日のラブストーリー
「おはよう。どうしたの、それ」
「ちょっと、いろいろと」
 おはようございます、と有紗は深く話さずに頭を下げた。

「そういえば坂巻さんって、おうちこっちの方じゃないですよね?」
「昨日は実家に顔を出してたんだ。転勤のこととか、何も言ってなかったから、一応」

「そうだったんですね。もうすぐですものね」
「あー、でも……」

 坂巻は口ごもり、それから「とりあえず会社に行く?」と有紗を促した。

 人混みの改札を抜けて、地下鉄に乗り込む。車両の奥のほうまで入って、吊革につかまった。神長に会いに行くことがバレてしまったらどうしようかと落ち着かない有紗よりも、なぜか坂巻の方がそわそわしている。

「異動の前に綿貫さんと話したいなと思ってたんだけど」
 驚きの表情を作りながらも、内容の想像はつく。ちょうどいま考えていた、神長のことに違いない。

「少し前、ランチに誘ってもらったとき、いろいろきかせてもらったけど、それから僕が何を決めたのかとか、何も話してないのが気になってて」
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