わたし、BL声優になりました
 二人の静寂を切り裂いたのは、無機質なインターフォンのチャイムだった。

「もう、来たか。案外、早かったな」

 緑川は独りごちると、ゆらぎを置いて玄関へと向かった。

 ゆらぎは冷めたコーヒーに口をつける。
 少し入れすぎた砂糖が、底に沈んで溶け残っていたのか、舌触りが悪かった。

 しばらくの後、玄関先から何やら言い争う声が聞こえてきた。一人は緑川だ。そして、もう一人は……。

「──いいから、中に入れろって言ってんだよ」

 この声、黒瀬先輩……?

 無意識に立ち上がり、玄関先へ向かう。
 すると、見えてきたのは、少し開かれたドア越しに対峙する緑川と黒瀬の姿だった。

「黒瀬、先輩……」

「白石、無事か。こいつに何かされてないか」

 ゆらぎの声に気づいた黒瀬が問いかける。

「あーあ。せっかく、匿ってたのに。きみも出て来ちゃ駄目だよ」

 緑川はゆらぎを一瞥すると、ため息混じりの言葉を吐き出した。

「すみません。気になったので」

「これ以上騒がれても面倒だし、黒瀬も入りなよ」

「言われなくても、そのつもりだ」

 緑川によって、閉ざされていたドアが開き、黒瀬が遠慮なく部屋へ入り込んで来た。

 こんな所で黒瀬に会うことになるとは思わなかったゆらぎは、気まずさで視線を逸らす。

 黒瀬はそんな彼女の手を強引に取り、自身に引き寄せた。そして、牽制するように緑川を睨みつける。

「弱みに漬け込んで、手、出してないよな?」

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