羊かぶり☆ベイベー
「え」
「みさおさんの熱い告白に、俺、今、喜びで膝から崩れ落ちそうなんですが……」
「──っ! な、何、言って!」
思わず、大きな声が出て、静かな室内に響き渡った。
天井が高いので、よく響く。
チラチラと視線を感じて、体を小さく縮める。
そして、今度はちゃんと声を抑える。
「……馬鹿なこと、言わないでください」
吾妻さんからの返事が無いのが気になり、彼を見ると、しっかりと目が合った。
私から目を逸らさない彼を、こちらからも見つめ返していると、照れてしまう。
慌てて、視線を外す。
外すと同時に、彼は呟く。
「さっき、笑ってくれたね」
「……すみません。なんか吾妻さんが、面白かったので」
「……んん『面白かった』っていうのは、なんか気に入らないけど、もう何でもいいや。笑ってくれたから」
「……モジモジしてる吾妻さん、気持ち悪かったです」
「うん。もう、ただの悪口だね」
「すみません。つい本音が。ポロっと」
「もう大丈夫です。慣れました。それも、俺に懐いてくれてるって、意味でとっとくからね」
「懐いてはいませんから。自惚れないでください」
羊の性格の話のくだりが、また舞い戻ってきた。
私、そんなに羊っぽいのかな。
「羊かぶり」だとは、自身でも感じてきたことだけど。
羊の皮を被った狼の様に、本当は皮の下は得体の知れない姿で、いろんな不満を蓄えている。
これでは、羊の見た目をしただけの、別の生き物である筈なのに。
『カウンセラーの決まりで──』
そう彼に何度か突っぱねられた時「淋しい」なんて思ってしまったことが、確かにあった。
以前なら、吾妻さんだけに関わらず、私の中に入ってこようとする人が苦手だったのに。
警戒心が強いのに、淋しがり屋。
本当だ。
私は、羊の皮を脱いだとしても、本当は羊なのかもしれない。