羊かぶり☆ベイベー
『女性はこういうことには、特に敏感で陰湿なところがあるから。本当に気をつけてよ』
不意に、いつかに言われた吾妻さんの台詞が甦る。
吾妻さんは、そう言って心配してくれたけど。
私だって、その女性だ。
同じ部類に属する私は、きっと今は逃げちゃならない。
「ユ……繁田さんが、かなり体調悪そうだったので、心配で来ました」
出来るだけ、笑顔を作るように努める。
冷や汗が少し滴るのを感じるが、気にしては居られない。
「ふーん? 『繁田さん』?」
彼女は鼻で笑う。
繁田は、ユウくんの名字で、何も間違えてはいない筈だ。
そこは自信を持てる。
何がそんなに可笑しいのか、疑問だ。
すると、彼女は口を開く。
「彼女のくせに、名字な上、さん付けですか。それ、大丈夫です? 本当に付き合ってます?」
敢えて、私はそれには答えない。
恋人の付き合い方なんて、人それぞれだ。
お互いの呼び方を、義務づけされる覚えはない。
それに、普段、私たちは名前やあだ名で呼び合っている。
しかし、そんなことまで、親しくもない彼女に、いちいち説明する義理もない。
己の感情は鎮めるように努めて、冷静に対応する。