羊かぶり☆ベイベー



「ご存知なんですね。私たちが付き合っていること」



彼女の眉が一瞬、痙攣したように上がったのを見た。

まるで、私が挑発してしまったようだ。

そのつもりは全く無い、と言えば嘘になるが。

私は、羊かもしれない。

警戒心が強く、臆病に見られるかもしれない。

だけど、相手を警戒できる気持ちを持っている。

警戒できるのなら、きっと反抗だってできる筈。

やや強気になった私を感じとったらしい彼女は、更に噛み付いてくる。



「ご存知も何も……。そもそも、コソコソ隠さなきゃならない関係なら、最初から付き合わなければ良かったのに」

「別に隠しているつもりは、ありません」

「なーんか、よく分かんない人ですね、あなた」



顎を上げて話す姿は、常に威圧感がある。

彼女は、意味ありげに皮肉を言う。



「彼から誘ったときには断るくせに、自分の都合の良いことは、こうやってノコノコと現れるんですね? 地味子さんが……自惚れちゃって」



自分の都合の良いこと?

そんな風に思って、ここまで追い掛けてきた訳じゃないのに。

ただ具合の悪そうな彼を見て、彼女の私が何かしないといけない、と思って。

……これは都合の良いこと、なのかな?

突如、飛んできた彼女の言葉が、奮い立ち始めていた私を一気に惑わせた。



「相手の気持ちにも気付けない上に、本音を隠して、見えないところで、勝手に1人で苛ついている彼女なんて……面倒臭いだけですよ」

「そんな、こと……」

「迷惑過ぎます。そんなあなたが彼を心配する資格なんて、無いですよ?」



彼女の舌は、切れ味抜群だった。

先程までの、戸惑いまでもが消え失せた。

彼女は恐らく、ユウくんから聞いた話のことを言っているのだろう。

私が夕食デートの誘いにのるのも、稀だという話を。


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