羊かぶり☆ベイベー
間違いなく、私の名前が呼ばれた。
だけど、その腕の中に居る子は、私ではない。
気付かないほど、泥酔している。
どうしたら、いいのか、分からない。
動悸が止まない。
ここで意地でも、ユウくんから彼女を引き剥がすべき?
本当なら、私がそこへ行くつもりだった。
私が足踏みしてしまったからだ。
だから、先を越された。
そして、今も私の気持ちは、足踏みし続けている。
また怖じ気づいてしまって、仕様が無い。
そうしている間に、彼女の手も彼の背中に回っていた。
完全に酔いの回り切った、甘えたに変貌した彼は、自分の腕の中に居る正体が分かっていないらしい。
少し体を離し、彼女を見つめると──。
その状況に、胸騒ぎがする。
そして、彼の顔は徐々に、あの子に近づき、2人の顔は重なった。
私の中で私を支えてくれていた筈の、細い糸の様なものが切れた音がした。
悲しいとも、苛立ちとも言い表し難い、複雑な感情のせいで、涙は出てこない。
今、重くなった、この足は彼らの居る方向へも、今回も逃げると云う選択肢を選ぶ為の後方へも、動こうとはしてくれない。
──どうしちゃったんだろう、私。
特に震えている訳でもないのに。
ただ呆然と立ち尽くしていた。
そこに、新たな気配を感じる。
気配の方を向く気力も、湧いてこない。
──情けない、こんなことで傷付いているなんて。
私は、早く通り過ぎてくれることを、じっと願った。
その気配の主が通り過ぎて、居なくなってくれたら、私も頑張って何か行動に移すから。
それが例え、いつもと変わらない選択をすることになっても──。
「あれ? みさおさん……?」