羊かぶり☆ベイベー



私は吾妻さんを、じっと見つめ返す。

すると、吾妻さんは、また苦笑いをした。



「ちょっと、何。別に変なこと、考えてないって」

「…………分かってます、よ」

「何、その間は。俺は、あなたが心配だからですよ? みさおさん」

「だから、分かってますって」

「ちょっと休憩するだけだから」

「……その台詞は、とても嫌です。気持ち悪いです」

「あ、みさおさん、このネタ伝わるんだ。なんかショック」

「黙ってもらえますか」



いつものおふざけが始まって、埒があかなくかる前に、ちゃんとお願いする。



「何から何まで、お世話かけます。少しの時間だけ、お邪魔しても良いですか」



私はそう言って、頭を下げた。



「顔、上げて。辛いときは無理繰り押さえ付けたら、いけないんだよ。気の済むまで居てくれて良いから」



吾妻さんは扉の鍵を開け、扉を押す。

そして、私を中へと促した。

1人部屋は、私たちの宿泊している2人部屋より、やや小さいだけで、基本的な造りは変わらない。

和室で、畳には既に、布団が1組が敷かれていた。

吾妻さんは部屋の鍵を端に寄せられた机に置き、こちらを振り向いた。



「好きなところ、座っていいよ」

「は、はい」

「あれ? もしかして、緊張してる?」

「し、してません」

「止めてよー? こっちが意識しちゃうでしょ」



この手の軟派な冗談には、以前なら嫌気が差していたのに。

今では、顔が熱を持ち始めて、反応に困る。

反応出来ず、固まっていると、吾妻さんが備え付けの緑茶のティーパックを湯呑みに、準備し始めた。

私は慌てて、駆け寄る。



「お茶なら、私が煎れます。そのくらいはさせてください」



私が手を出そうとすると、偶然吾妻さんの指先が触れた。



「あっ、ごめんなさい」



すると、吾妻さんは溜め息を吐く。


< 157 / 252 >

この作品をシェア

pagetop