羊かぶり☆ベイベー
「みさおさん?」
「はい……」
「1回、落ち着いて」
「あ、ごめんなさい……」
「謝らなくていいからね」
笑って、和ませようとしてくれている。
そして、吾妻さんの指が触れて、慌てて膝の上に置いた私の手は、吾妻さんが大きな片手で包み込まれた。
思わず、体ごと跳ね上がる。
吾妻さんは、そんな私を気にする様子も全くない。
「はい。ゆっくり、深呼吸」
言われるがままに従って、息をゆっくり吸い込み、続いて吐き出す。
一旦、落ち着いたとは思うが、目の前に居る吾妻さんを意識すると、気持ちはまだソワソワしている。
顔を上げると、吾妻さんもこちらを見ていた。
そして、吾妻さんはニコリと笑って、私の手から手を離す。
「はい。よく出来ました」
それだけ言うと、ティーパックがセットされた湯呑みに、ポットからお湯を注ぐ。
結局、私は手伝うことが出来なかった。
申し訳なさにうつ向いたと同時に、吾妻さんは話題を振る。
「そういえば、みさおさん。今日の宴会、ちゃんと食べれた?」
「あ、まぁ、それなりに」
「本当に? ずっとお酌しに行ってたじゃん。食べてないんじゃないの?」
「戴きましたよ。美味しかったです」
この人は、私のそんなところまで気にしてくれていたのか。
私はそれなりに話題をかわそう、と思っていたのだが。