羊かぶり☆ベイベー
「刺身とかね。身が堅くて、旨かったな……新鮮な証拠だね」
「そうですね」
「……じゃあ、問題。刺身には何の魚があったでしょう」
「へっ」
「食べたのなら、だいたいは覚えてるよね」
「あ、えっと……マグロとか、あとイカ? もありましたよね」
吾妻さんの反応を窺う。
正直なところ、覚えていない。
みんなのお膳に、お刺身が運ばれてきていたことくらいは知っている。
しかし、自分が食べていないので、ちゃんとした記憶が残っていない。
お刺身の内容なんて、気にも留めなかった。
吾妻さんが勘繰った通り、はじめの食前酒と前菜、天ぷら1つ2つしか、お腹に入れていない。
正直、お腹は空いている。
吾妻さんの反応を窺い続けても、向こうも頑なに表情を変えまいと、堪えているようだ。
ここでバレても、吾妻さんなら私を責めるようなことはしないとは分かっている。
でも、変な意地を張ってしまうのは、私だ。
「ええと、タイとか……サーモンとか──」
「ぶっぶー!」
突然、割りと大きめな声で言われ、驚く。
「サーモンなんて、ありませんでした!」
まだ私の心臓は、ドッキンドッキンと大きく驚いていて、可哀想になる。
胸の辺りをそっと押さえてあげて、私は素直に認めた。
「本当は、ほとんど食べてません……すみません」
嘘を吐いた私に対しても、笑顔のままで居てくれる。
「そんなことだろうと思った。みさおさん、気にしいだから。人にお酒、注いでたら、多分、自分のことには気が回らないんじゃないかと、思ってた」
「私、要領、悪くて。吾妻さんには、何でもお見通しですね」
私の言葉に、吾妻さんが愉快そうに笑う。
そして、立ち上がり、自身の旅行鞄を漁り出した。
「吾妻さん……?」
呼び掛けて間もなくして、戻ってきた彼は机の上にビニール袋を置く。
「これ、夜食用に買った、つまみ。嫌いじゃなかったら、一緒に食べようよ」
「いいんですか?」
「食べな。お腹減って、寝れないよ?」
「ありがとうございます……」