羊かぶり☆ベイベー
吾妻さんはと云うと、知らん振りを決め込んでいる。
敢えて、見ないようにしてくれているのかもしれない。
私がユウくん以外に、気がいかないように。
その気遣いが、少し淋しく感じた。
「……ありがとうございます。あの、他にも注文いいですか」
「もちろん。どうぞ」
元はと言えば、ユウくんをここへ誘う提案をしたのは、吾妻さんなのだから。
何なら、奢ってくれるとか、何とか言っていたし。
奢りに関しては、未だ効力が有るのか、分からないけれど。
胸をキュッと締めるような、この淋しさを紛らわす為に美味しいものを戴いておこう。
メニューを広げ、私がユウくんへ何が食べたいか、尋ねてみても「何でも良い」と言うので、サラダや2、3品の一品ものを、独断で決めていく。
生憎、彼の好きなものも、分からない。
とりあえず、数を頼んで、好きに食べてもらうしかないと思い、少し考えて注文した。
難しいし、正直、面倒臭いとも思ってしまった。
「──以上で」
「かしこまりました」
この定型文を言えば、また店長は行ってしまう。
それが分かっているから、体が反応して、また構えた。
これ以上、相手の心理を覗こうとするような、難しいことは考えたくなくて、何か手を動かす。
「これ、切り分けるね」
目の前でジュウジュウ言っている鉄板焼きを指差して、彼の返事も待たずに、それを引き寄せた。
それ以上、特に会話が膨らむこともない。
私は黙々とナイフで、切り分けていく。
この沈黙の間、彼は何を思っているのか、予想もつかない。
私と居て、果たして楽しいのだろうか。
これは卑屈でも、何でもなく、ただただ疑問だ。