羊かぶり☆ベイベー



「みさおちゃん、なんで泣いて……」



先に口を開いたのは、ユウくんだった。

大体、想定通りの言葉に、内心、溜め息が溢れる。

涙を堪える私自身を庇いながら、他人は庇えない。

力の無い私では、そんなことは出来っこない。

深呼吸をして、しっかり声を出す。



「ユウくん、私のこと、最初から好きじゃなかったよね」

「そ、それは……」

「今もユウくんにとって、私は『好き』の対象では、ない、よね?」

「ちょ、何言って……」



狼狽えてくれたから、良かった。

もし、ここで「好き」だなんて、上辺だけ取り繕われたら、私はこの人を生理的に受け付けられなくなっていた。

これで、きっと決意を述べられる。



「ユウくんとは突然、関係が始まって、どんな人かも掴めないまま、今日まで来ちゃって。だから、私もどんな存在で居たら良いのか、分からないし。ずっと、苦しくて……」



不思議と息が荒くなる。

言葉よりも、気持ちが先走って。

喉が熱い。

不快な熱さ。

呼吸を整え、気持ちを落ち着ける。



「これ以上、お付き合いを続けていく自信がありません。ごめんなさい」



そして、頭を下げた。

とりあえず、言えた。

妙な達成感を得ると、もう何でも良くなった。

素直に聞き入れてもらえるか、という心配は二の次だ。

ユウくんが反応するまで、頭は上げないつもりでいる。

すると、微かに声が聞こえてくる。



「こういう、こと……?」



ユウくんの声であることには間違いないのだが、様子が変だと思い、つい顔を上げてしまった。



「サポートって、こういうこと?」

「はい?」

「みさおちゃんは俺と別れることに、必死になってたから、それをサポートしたってこと?」



怒りは吾妻さんに向けられている。

赤の他人だと先程、言ったのは自分のくせになんて我が儘な。

そうではなくて、私に言えば良い。

とは言っても、怒る彼を前に私は怖じ気付いてしまっていた。



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