羊かぶり☆ベイベー



普段、寡黙な彼は、怒ると捲し立てて言葉を放つタイプらしい。

私は、その間に入る勇気は持ち合わせていなかった。

その間にも、ユウくんは吾妻さんに迫る。



「何でしたっけ? 『カウンセラーの決まり』? 秘密厳守しないといけないんでしたっけ? でも、あまりにも黙られると、こっちは肯定だと思ってしまうんですが?」



ユウくんの捲し立てる姿に、吾妻さんは深く深く溜め息を吐いた。



「……みさおさんが、あなたと別れたいというご相談内容だったか、ということについては、お答えしておきましょう。全く違います」

「じゃあ、なんでこんな話に!」

「彼女が悩みながら、考えて考えられた末の結果なのだと思いますよ」



吾妻さんは、とっくに作り笑いなんて止めている。

至って、真剣に私の代弁をしてくれているのだ。

吾妻さんの真剣な眼差しに、目頭がますます熱くなってくる。

その中でも、私はこの場を収める方法が見当たらず、内心では困惑していた。

ユウくんの口調が荒くなってきて、吾妻さんにまで迷惑をかけて。

そう思っていたとき、ユウくんが懲りずに吾妻さんに当たる。

どうせ、意味なんて無いのに。



「そうやって……あんたが誘導したんじゃないのか? じゃなきゃ、みさおちゃんは、そんなこと言える人じゃ──」

「いい加減にしろ……!」



元々、静かな店内に、吾妻さんが大きな声が響いた。

そして、静まり返った。



「みさおさんは、強い人だ。意思をしっかり持ってる。だけど、普段はそれを隠して、我慢してまで相手の、あんたの為に、素直になれない自分を何とかしたいって、人にも頼らず、頑張ってたんだよ」



先程まで威勢の良かったユウくんも、こればかりは黙り込んでしまっている。

私も同じくなのだが。



「それも分からずに……。今のは紛れもなく、彼女の意思だ。しっかり聞いてやれよ!」



物凄い剣幕の吾妻さんに、ユウくんは未だ声が出ないようだ。


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