羊かぶり☆ベイベー



──本当に時間を忘れてしまう。

カクテルも何杯目を手に取っているのか、分からなくなってきた。

気が付けば、もう時刻は22時前。

お客さんも、私達だけになっている。

その頃、私たちは吾妻さんオススメの鉄板焼きを食べ終わり、その残ったソースにスパゲッティを絡ませて食べていた。

吾妻さん曰く、追いパスタ、だそうだ。



「んん、美味しかった。でも、こんな時間に食べてたら、太りそうですね」

「旨いんだから、良いんじゃない? 罪悪飯の醍醐味よ」

「あんまり他のお客さんが居るときに言うなよ。賄いみたいなもんで、メニューにはしてないんだからな」

「はいはい」



呆れた様子の店長に、吾妻さんは適当に返す。

そんな吾妻さんに、更に溜め息で返した店長は、次に私に視線を移す。



「明日もお仕事なのでは?」

「あ、そうですね。楽しみ過ぎちゃいました。そろそろ帰ります」

「今日は、どうやって帰られます、か?」

「タクシー呼ぼうと思って。お勘定、お願いします」



カウンターの向こう側で、伝票に書き込んでいる。

恐らく、注文の追加分だろう。

それだけなのに、ゆったりとした動作に、目がいっていた。

すると、そのまま店長が吾妻さんの前で、頬杖を付く。

──あれ? まだ伝票、貰えない?

木製カウンターを店長のスラッと長い人差し指で、コツコツと2回鳴らす。



「言わないのか」

「な、何をだよ」

「……もう、いい」



また店長は、溜め息を吐いた。

先程から2人のやり取りを見ているが、今日はやけに店長が積極的だ。

珍しいこともあるものだ。

そう勝手に面白がっていると、店長と目が合う。



「お客様。お金を使わずに帰れる方法があります、が?」



その言葉に、思わず沈黙してしまう。

その方法、恐らく私、知っています。

一応、苦笑いで、首を傾げておく。



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