羊かぶり☆ベイベー
「こちらに、一滴もアルコールを飲んでいない、敏腕ドライバーがおります」
予想は、大当たり。
正直なところ、とても迷う。
あの初めて会ったときとは、関係が違う。
カウンセラーとクライアントだから、それ以外では関わりを持っちゃいけないとも思うけど。
でも、それ抜きでカウンセリングではない時には、友達として居てほしい、とも言われた。
「うーん……どうしようかな。でも、吾妻さんに悪いですし」
「使えるものは、使った方がよろしいかと」
「俺の扱い、めっちゃ雑だな?」
吾妻さんは、そう言いつつも、立ち上がった。
背もたれに掛けてあったジャケットを豪快に羽織ると、お札を数枚、財布から取り出し、カウンターに置く。
「これで足りる?」
「ちょっと待て。今、おつり出すから」
「おつりは要らない」
「いつも適当は困る。帳簿合わせるのが面倒なんだ」
店長がおつりを吾妻さんに、しっかりと握らせる。
「さて、行こうか。みさおさん」
「えっ。ちょっと、また悪いです。私の分はちゃんとお返しします……」
「いいの、いいの。行くよ」
慌てて私が財布を取り出そうと、鞄の中をまさぐっている間に、出口へ向かっていく。
店長に肩をそっと叩かれた。
「本人が良いって言うんですから、良いんですよ。こういう時は甘えておけば、大丈夫です」
非常に分かりにくいが、無表情の中にも、口元が弧を描き、瞳の奥にも温かさを感じた。
そして、手の平を出入口へ向け、促される。
「ご馳走でした。また来ます」
「心よりお待ちしております」
店長に会釈をして、お店を出ると、夜も遅い町は静まり返っていた。