羊かぶり☆ベイベー
ようやく動き出した店長を、目で追う。
人の悩みに割り込んで、感情を読み解けてしまう人。
そんな超能力みたいな、不思議な才能を持つ人がいるのだろうか。
心を覗かれるなんて、そんなの御免だ。
さっきだって、私が黙り込んでしまったから、吾妻さんも気を遣ってくれた、きっとそれだけ。
別に見抜かれたなんて──
でも、吾妻さんは「妥協」という言葉を、一発で選んでみせた。
それで、私を簡単に言い負かした。
吾妻さんは、見事に言い当てている。
「信じない……」
「信じてやってください」
そう言って、私の前には濃い紫色のカクテルが置かれる。
「わ、もう出来たんですか」
「はい。お客様がいろいろ呟いている内に」
「口に出ていましたか……」
「はい」
顔が、一気に熱くなる。
無意識って、怖い。
気を取り直して、目の前にやって来たカクテルを見た。
先ほどの鮮やかな緑、ライトグリーンとは打って変わって、深く濃い紫。
グラスを持ち上げると、そこから香ったのは、意外にもオレンジの柑橘系のような香り。
驚きつつも一口、運ぶ。