羊かぶり☆ベイベー
「先輩、経理の人と付き合ってるって、本当ですか?」
彼女が尋ねても、ユウくんは一切口を聞かない。
「ちょっと、無視しないでくださいよ」
無視を続けるユウくんに、彼女は何度も声を掛けては詰め寄る。
「もしもーし、聞こえてますかー? 先輩ってば」
「……ああ、もう、うるさい。自分の仕事が終わったのなら、さっさと帰れよ」
「やっと反応してくれた!」
笑顔になる可愛らしい彼女。
覗き見ている私には、あまりにも眩しい。
私に彼女のような社交性は無いし、無邪気な笑顔を見せられるほど、ユウくんの前でリラックス出来ていないから。
──いやいや、卑屈になっちゃダメだって。
嫌な考えを振り払うため、首を思いきり横に振る。
そうしている間にも、ユウくん達の会話は続く。
彼女の甘ったるい女性特有の声が、一番良く聞こえてくる。
「まだ帰りたくないんですぅ。先輩とまだ一緒に居たくて」
「いい加減にしろよ。しつこい」
彼女が明らかに、動揺したのが見えた。
しかし、直ぐに持ち直すと、また笑顔に戻る。
「ちょっとー、しつこいとか酷い!」
「本当、しつこいって。悪いけど何度言われても、お前の気持ちには応えられないから」
「どうして」
「どうしてって、そりゃ──」
「経理の、地味子さんと付き合ってるからですか?」
彼女から笑顔が、一瞬で消えた。
なんて表情豊かなんだろう。
その上、どうしてあんなにも、一つひとつが素直に顔に出るんだろう。
背筋がゾクッとした。