bitterlips
椎名 澪。
人の名前なんてすぐに忘れる俺が、何故かこの名前を忘れなかったのは
龍也が初めて語った
“昔の女”だったからだ。
「死んでなきゃいいけど」
酒のせいでなのか
龍也の目はトロンと垂れている。
「龍也の昔の女って、やっぱりアブナイ女なのかな?」
俺の耳元で声をひそめた徹平。
「さあ?」
そんな徹平には
テキトーな返事をしておいた。
徹平は、すぐ人の過去とか
秘密を知りたがる。
俺の地元の話をしたときもそうだった。
目をギラギラさせて、質問攻め。
テキトーに流すとすぐに騒ぐ。
「興味無いの!?龍也の元カノ!」
「そんなもんねーよ」
「えぇーっ?絶対、悪女でドSだよ!」
檻の中に閉じ込められた犬が
ギャンギャンと吠えるような声。
徹平がだんだん犬に見えてきた頃
打ち上げはお開きとなった。