bitterlips
それから、あの日以来
龍也が女の名前を口にすることは
1度もなかった。
さすがの徹平も、龍也に女のことを聞くのは遠慮していた。
「キャーーッ!快斗ー!」
「ワアアァーーッ!」
ステージから姿を消すと、気持ち良いほどの歓声が聞こえてくる。
今回のタイバンでは
かなりハードな曲を披露したせいなのか
客の盛り上がりはすごく、前列では激しいモッシュの波がたっていた。
ステージとフロアとの差は
手を伸ばせば客に届くくらい。
それほど、近いって意味だ。
「ごめん、煙草吸ってくる」
「早くしろよー?」
客の熱気と、俺に降りそそぐ照明。
俺の汗は尋常じゃない。
早く夜風にあたりたいがために、俺は煙草を口にくわえながら、裏口を開けた。