もう一度〜あなたしか見えない〜
「ちょっと待ってよ。別に僕は我慢なんか・・・。」


「家事を下に見るつもりはないよ。家事の大変さ、大切さはちゃんと知ってるから。でも、それに明け暮れて、私の帰りを待つ生活が、あなたにふさわしいとは思えない。」


以前の夫は、仕事に明け暮れる毎日だった。そばで見ていて、身体だけは壊さないようにね、そう祈る日々だった。


だけど、確かにしんどそうではあったけど、やりがいも責任感もあって、充実していたように思えたのも確かだった。私の知る限り、夫は会社からの信頼も厚かった、優秀な技術者だった。


少なくとも、夫に主夫は似合わない。家事は今度は2人で分担すればいい。生まれてくる子供も、私の両親の助けも見込める。力を合わせて、育てていけばいいんだよ。


私はそう言ったけど、夫の反応は薄かった。


「ありがとう。だけど、僕ももうすぐ36だ。残念ながら、お世辞にも若いとは言えない歳だし、1度ならず2度も会社を辞めてる。そして、かれこれ2年もブランクがある。そんな男が簡単に戻れる業界じゃないよ。」


「・・・。」


「とにかく仕事は探してみるけど、正社員っていうのは、なかなか難しいかもしれない。ごめんな、頼りにならない夫で。」


そう言って私に頭を下げる夫。そんな夫を少し見ていた私は


「やっぱりダメなんだね、私達・・・。」


とポツンとつぶやくように言う。


「なにバカなこと、言い出すんだよ。」


慌てた声を出す夫に


「1回壊れてしまったものは、やっぱり元には戻らないんだよ。」


と言って、私は部屋を飛び出した。妊婦だからそんな素早くではなかったけど。
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