もう一度〜あなたしか見えない〜
寝室に飛び込んだ私は涙が止まらない。ベッドに座って、顔を覆って泣いていると、夫が入って来た。


「一体どうしたんだ、なんで僕達はやっぱりダメなんだよ。さっき幸せだって、言ってくれたのはウソなのか?」


私の肩を抱くようにして、夫は懸命に私に呼び掛けてくれる。そんな夫に私は首を横に振る。


「じゃ、なんで・・・。」


「あなたは私を信じられないんだよ、やっぱり。」


「なぜ、そんなこと言うんだ?」


「あなたは恐れてる。前のようなすれ違いの生活に戻ってしまえば、また私に裏切られるんじゃないかって。」


その私の言葉に、夫は息を呑んだ。


「私、あんなこと、もう絶対しないよ。だから信じてって口ではいくらでも言える。ううん、心の底からそう思ってるよ。でも、あなたには伝わらない、あなたの心にはやっぱり響かないんだよ。だって、私の言葉なんか、何の保証にもならない。悲しいけど、それが現実。私が全部壊しちゃったから。ごめんなさい。」


そう言って、私は泣いた。泣きじゃくる私を、夫は抱き寄せ、口づけようとする。しかし私はそれを拒む、そんな偽りのキスなんかいらない。


だけど、とうとう私の唇は、夫の唇によって捕えられ、舌が侵入して来る。私はそれを懸命に阻止しようとするけど、やっぱり最後は自分の意思で受け入れてしまった。


長い長い口づけの後、リップ音が寝室に響いて、私達の唇は離れる。私は潤んだ瞳で夫を見つめる。


「なんでキスしたの?」


「好きだから、君を愛してるから。」


私をまっすぐ見ながら、夫は答える。


「そう言う君は、どうして僕のキスを受け入れてくれたんだ?力づくには敵わないからか?」


「ううん、違うよ。あなたが好きだから、あなたをやっぱり愛してるから。」


私もまっすぐ夫を見る。


「じゃ、答えは1つじゃないか。」


夫は言った。


「一緒にいよう、いつまでも、どんな時でも。確かに、1度壊れたものは、もう元には戻せないかもしれない。でも、もう1度作り直すことは絶対に出来るはずだよ。」


「うん・・・。」


私の目からはまた、涙がにじんでくる。だけど、この涙はさっきまでの涙とはもう違う。


「僕は君を信じてる、君も僕を信じて欲しい。」


「はい。」


力強くそう言い切った夫に対して、私も大きく肯く。


(心配かけてゴメンね。だけど今度こそ、パパとママはもう大丈夫。だから安心して、元気に生まれて来てね。)


私はお腹の中の赤ちゃんに、自信を持って、そう呼び掛けていた。
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