自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
メインストリートから横道に折れ、港の方へと十五分ほど進めば、ドラノワ公爵邸に到着した。

赤瓦の屋根に白壁の大邸宅は、背景に青く輝く海と岬の灯台がチラリと見える。


(いつ来ても美しい屋敷よね……)


玄関前で馬車を降りたセシリアは、潮の香りを仄かに含んだそよ風に吹かれ、気持ちよさそうに目を細めた。

次のターゲットを探すという目的を忘れていないが、今は楽しい心持ちでもある。

それは、親友のイザベルに会えることが嬉しいからであった。


ドラノワ家の執事が出迎えてくれて、屋敷内に足を踏み入れたら、イザベルが奥の廊下から玄関ホールに姿を現した。

彼女は利発そうな大きな目をした美しい娘で、縦巻きの赤茶の髪を下ろし、真紅のバラの生花で飾っている。

ドレスはワインレッドで、大胆に開いた襟元からは、寄せて上げた胸の膨らみの上部がチラリと覗いていた。


「セシリア、いらっしゃい。待っていたわ」とにこやかに歓迎してくれた彼女だが、その直後に顔をしかめると文句を言う。


「遅かったじゃない。他の皆さんは、もう着いているわよ」

「え? わたくし、遅れたのかしら……」


セシリアが首を傾げて玄関ホールの柱時計を見れば、時刻は十六時十五分前である。
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