自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
けれども、そう言われることを予想していたかのように、近くの椅子の上から楽譜を取ったイザベルがセシリアに差し出す。


「はい、これがあなたが演奏する楽譜よ」


曲目は『小鴨のワルツ』。

明るいサロンパーティー向きの曲で、それほど難しくはない。

セシリアの得意曲のひとつでもあり、彼女はホッと息をついた。


(私が弾きやすい曲を選んでくれたのね。やっぱりイザベルは優しい人よ。私のことをよくわかってくれるのも嬉しいわ)


この選曲がイザベルの親切心からのものであると信じて疑わないセシリアは、「ありがとう」とお礼を言って楽譜を受け取った。

にっこりと微笑んだイザベルが、「客席に座って」とセシリアに促す。


「まずは、わたくしから演奏するわ」

そう言ってグランドピアノに歩み寄り、イザベルはそっと椅子に腰を下ろした。


ピアノは貴族女性の教養のひとつとされ、ここに招待されている令嬢たちは皆、小さな頃から家庭教師をつけて練習を重ねてきた。

それでも、生まれ持った才能というものには違いがある。
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