自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
イザベルとセシリアは抜きん出て上手で、種々の集まりの場では、皆の前で演奏を頼まれることが子供の頃から度々あった。

おそらくふたりの腕前は互角であると思われるが、周囲はセシリアの方を特に褒めがちである。

レース編みや、詩の朗読にしても然りだ。

それはひとえに、王家と公爵家の力の差であり、決してふたりのせいではなく、致し方ないことであった。


セシリアは空いていた前列の中央の椅子に腰を下ろし、他の令嬢たちも座り直す。

イザベルが弾き始めた曲目は、『負けず嫌いな娘のロンド』。

軽やかでユーモラスな雰囲気の曲である。

イザベルがこの曲を弾くのを初めて聴いたセシリアは、感心して首を縦に振っている。


(新しい曲を練習していたのね。イザベルは努力家だわ。私も頑張ろうという気持ちにさせてくれる、大切な親友よ……)


客席の令嬢たちは気持ちよく演奏に聴き入り、楽しそうな顔をしている。

セシリアも笑みを浮かべて聴いていたのだが、ふと疑問に思ってイザベルの足元に注目した。


(今日はペダルをあまり使わないのね。どうしてかしら……?)


グランドピアノの足元には、ペダルが三つついている。

ペダルは音を切ったり、伸び方を調整するためのもので、上手に弾きこなすには欠かせない機能だ。

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