自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
ゆっくりと慎重に椅子から立ち上がったイザベルは、賞賛の言葉を気持ちよさそうに聞いている。

拍手と賛辞がやむと、彼女はセシリアに顔を向けて言った。


「次はセシリアの番よ。あなたの演奏、楽しみにしているわ」


微笑みを返したセシリアは、楽譜を胸に抱いてピアノに歩み寄る。

ピアノの椅子に腰を下ろしたら……なぜか椅子の脚がギシギシと音を立てた。

ピカピカな黒塗りの椅子は新しそうに見えるのに、軋むのはどういうわけだろう。

体を揺すれば、やや不安定な感じもして、首を傾げたセシリアは、鍵盤に手をのせるのをためらっていた。

しかし客席のイザベルが、早く演奏を始めなさいというように拍手して、他の令嬢たちもそれにならう。


(そうよね、弾かなくちゃ。ピアノに触れるのは一週間ぶりくらいだわ。上手く弾けるかしら……)


急かされて、意識を椅子から楽譜へと移したセシリアは、小鴨のワルツを弾き始める。

この曲は三楽章からなり、演奏時間は十二分ほどだ。

第一楽章はなにも問題なく、セシリアは流れるように鍵盤に指を走らせていた。
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