自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
それはきっと、セシリアの前に弾いたイザベルが、問題なく演奏を終えたからであろう。

イザベルの楽譜には、高いソ音は出てこなかったからであるのだが、そこまで察する者はいないようであった。


忍笑いが漏れるたびに、セシリアは恥ずかしさが募る。


(演奏を中止した方がいいのかしら……?)


迷いの中で第三楽章に突入するとテンポが上がり、指も、ペダルを踏む足の動きも速まった。

三つのペダルを忙しなく踏み代えていれば、椅子に座っていても体の重心は前後左右に動くものである。

椅子が軋むのも気になっていた、その時……バキッと木が折れたような音がして、セシリアは「キャア!」と悲鳴をあげた。

椅子の脚の一本が、中ほどから折れてしまったのだ。

なすすべなく床に転がり落ちたセシリアに、客席がドッと湧いた。


「わ、笑っては失礼よ」

「でも、椅子の脚が折れるなんて前代未聞ですから、おかしくて……」

「セシリア様、お怪我はございませ……ウフフフ!」
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