自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
(時間が欲しいなんて、断るための口実よね。騎士団長として、お父様を裏切る真似はできないとお考えなのではないかしら。私の最後の願いを叶えるより、そっちの方が大事なんだわ……)


一歩下がってうなだれたセシリアに、クロードの右手が伸ばされかけたが……彼は思い直したように宙を握りしめると、王女に向けて一礼する。


「落ち着いたら、私室にお戻りください」


淡白なその言葉を残した彼は、踵を返して礼拝堂から足早に出ていってしまった。

扉が閉まれば、礼拝堂は静寂に包まれ、ステンドグラスを通した鮮やかな夕日が、セシリアに降り注ぐだけである。


(頑張ったけど、運命を変えられなかったわ。クロードさんへの恋心を消せないまま、私はサルセル王太子の妻になるのね……)


「ううっ……」と響いた呻き声は、セシリアのものである。

赤絨毯の上に膝から崩れ落ちた彼女は、声を押し殺して大粒の涙を流していた。


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