自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
カメリーが毛布を剥ぎ取ってセシリアをベッドから引っ張り下ろし、ツルリーが王女の手を握ってドアへと走り出した。


「早く行きましょー! 訓練はきっともう始まってますよ。じっくり盗み見して、一緒に胸キュンしましょー!」

「ええ、そうね。会えなくなっても、瞼を閉じればいつでも思い出せるように、目に焼きつけておかなくちゃ……」


カメリーに見送られて、ふたりは西棟の尖塔へ向かった。

オリーブグリーンのデイドレスの裾をたくし上げたセシリアは、息を切らせて螺旋階段を駆け上がる。

てっぺんの見張り台に出ると、見張りの若い兵士が驚いたように振り向いた。

王女の顔を見て、敬礼の姿勢を取った彼とは、この見張り台で以前にも会ったことがある。

望遠鏡を貸してくれたのに、ツルリーが壊してしまった時の、あの兵士だ。


セシリアが、「気分転換のために景色を眺めたいの」と、前回と同じ理由を口にすれば、彼は快く応じてくれる。

けれども、今回はその手に持っている望遠鏡を貸すとは言ってくれず、さりげなく背中に隠してしまった。

それに気づいたツルリーが、彼に腕を絡ませて、ウインクしながらおねだりする。


「この前は迷惑をかけてごめんなさい。今日は気をつけるから、貸してくださらない? オ・ネ・ガ・イ」

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