自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
若い娘に触られた経験がないのか、兵士の頬がポッと火照った。

そして緊張に上擦る声で、「ど、どうぞ」と望遠鏡を渡してくれた。


しめしめとばかりにほくそ笑むツルリーは、調子に乗って要求を追加する。


「それと、あなたは邪魔……じゃなくって、見張りでお疲れでしょうから、塔を降りて休憩したらどうかしら?」

「いえ、自分は疲れておりません。侍女殿、お気遣いーー」


彼女の提案を真面目な顔で断ろうとしている兵士であったが、ツルリーがそれを言わせない。


「気づいていないだけで、あなたは疲れているわ! フラフラ、ヘロヘロ、フニャフニャなのよ。わかって!」

「フニャフニャ、ですか?」

「そうよ。だから早く階段を下りて、視界から消えてちょうだい。タイプじゃないけど、言うことを聞いてくれたら、今度デートしてあげるから!」

「は、はぁ……」


納得のいかない顔をしている兵士だが、ツルリーの気迫に押し切られる形で、仕方なく階段を下りていった。

これで心置きなく、騎士たちの訓練風景を盗み見できることだろう。

「ツルリーありがとう。頼もしいわ」とセシリアが褒めれば、侍女は得意顔で胸を叩いた。
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