自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
「セシリア様、朝食のお時間が迫っております。早くお部屋に戻られて、お支度を」


朝食が始まるまでは、まだ二時間ほども余裕があり、晩餐と違って着飾る必要もないので準備はいらない。

カメリーがおかしなことを言い出した理由もやはり、困っているセシリアを助けるためであると思われた。


侍女たちに感謝しつつ、「ええ、わかったわ。急ぎましょう」と、セシリアは話を合わせる。

この場をツルリーに任せることにして、「ジャルダンさん、ごめんなさいね。これで失礼するわ」と言い置いて逃げ出した。


厨房に近い北側の通用口は、朝の仕事を始めた使用人たちで混雑しているのが見えたため、セシリアとカメリーは西の通用口を目指して小走りで進む。

大邸宅の外壁に沿って角を曲がろうとしたら……前方から誰かが現れて、セシリアはぶつかってしまった。

「キャッ」と可愛らしい悲鳴を上げたが、痛くはない。

優しく抱きとめられたような、衝突であったからだ。


その人の腕の中で「すみません」と顔を上げれば、クロードの麗しき瞳と視線が交わる。

心臓を大きく波打たせたセシリアに、クロードが微笑んで、「おはようございます」と優しげな声をかけた。


「驚かせて申し訳ありません。セシリア様に申し上げたいことがありまして、お待ちしておりました。ふたりで話す時間をいただけますか?」

「は、はい……」

< 61 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop