自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
時刻はまだ六時前である。

こんな朝早くになんの話だろうと疑問に思いつつも、彼女は断らない。

頬も胸も熱くなり、愛しき彼の腕の中にいることが嬉しくて、たまらないのだ。


(ああ、朝からクロードさんにお会いできるなんて、今日は幸運な日だわ!)


企みの失敗を忘れそうなほどに舞い上がり、うっとりとクロードを見つめるセシリアであったが……その夢心地を邪魔をしたのは、冷めた目をしたカメリーである。

騎士団長への恋心を早く忘れるべきだと考えているカメリーは、クロードとふたりきりで話をしようとしている王女に、「いけません」と注意した。


「侍女として、殿方との密会を看過できません」との厳しい言葉に、クロードは面食らった顔をして、セシリアに触れていた腕を外して距離を取る。

それを残念に思うセシリアは、カメリーに向き直ると、胸の前で指を組み合わせて小声でお願いする。


「特別に許してもらえないかしら?」

「絶対に駄目です。私はツルリーのように甘くはありません」

「戻ったら、銀貨三枚を渡すと言っても……?」

「それを先に仰ってください。わかりました。目を瞑りましょう。朝食に間に合うようにお戻りください」


カメリーは姿勢正しく一礼すると、口元に微笑みを浮かべて西の通用口へと歩き去った。
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