自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
「息子が靴作りへの情熱を取り戻してくれたのですよ! それと言いますのはーー」


今回のセシリアのパンプス製作を担当していたのは、タロンであったらしい。

セシリアが何度もデザイン画を描き直しさせ、理不尽な要求を突きつけたことで、タロンは、自分はまだ靴職人として未熟であると認識を改めたそうだ。

次こそ王女を満足させるパンプスを……と思い、ほとんど寝ずに製作に没頭したこの四週間ほどの間、楽しくて仕方なかったという。

彼の職人魂に再び火が灯り、メラメラと燃え上がったのは、セシリアのおかげであるという話であった。


それまでにこやかに、父親の説明に頷くだけであったタロンが、ウズウズとした面持ちで口を挟む。


「やはり自分には、この道が合っているようです。それを気づかせてくださいました王女殿下には、感謝してもしきれません。ありがとうございました!」


座ったままで勢いよく頭を下げたタロンは、セシリアの困惑に気づくことはない。

顔を上げた彼は、「それでは、今回も作り直しということで、これを持ち帰りましてーー」とパンプスの入った紙箱に手を伸ばした。

それを見たセシリアは、慌てて止める。

< 94 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop