初めまして、大好きな人
「着いた」
「ここ?」
「うん」
施設に着いて、私が声を上げると、
尚央は施設を見上げた。
口を少しだけ開いて、じっと建物を見つめている。
庭に施設長がいて、私に気付くと微笑んでくれたけれど、
すぐに尚央に気が付いて目を丸くした。
眼鏡をかけ直してゆっくりと私たちに近付いてくる。
「あの、失礼ですが、貴方は?」
「あ、ああ、俺ですか?俺は榎本尚央って言います。
五か月前に波留さんと知り合いました。ただの大学生です」
「そうですか、波留ちゃんを送っていただき
ありがとうございます」
施設長がにっこりと笑って頭を下げた。
つられて尚央も頭を下げる。
尚央はぱっと私の手を離す。
離された手が徐々に冷たさを帯びていく。
私はそっとその手を見つめた。
私はまだ、繋いでいたかったのかもしれない。
「じゃあ、波留。また明日な」
「えっ?あ、でも、私……」
「また明日、な?」
「う、うん……」
尚央は私の頭にぽんっと手を置くと、笑った。
そして私が施設の中に入るまで、
尚央はヒラヒラと手を振って見送っていた。
部屋の中に入ると、
私はノートをテーブルの上に置いて一息ついた。
今日は大冒険をした気分だ。
記憶が失われるようになるという
衝撃的な事実が発覚して落ち込んでいた私だったけれど、
今日はいい日だったと思う。
最近の私のことはよく分からないけど、
久しぶりに楽しかったような気さえした。
これは今日のことを事細かにノートに記しておく必要がある。
明日の私も覚えていられるように。
夕ご飯の時間になって、
一人の男の子が私を部屋まで呼びに来た。
左目に眼帯をつけた男の子。
男の子はひょっこりとドアの隙間から顔を覗かせると、
にっこり笑って私を手招きした。
この子、ノートを見る限りでは私に懐いているんだよね。
よく見るととてもかわいい。
「お姉ちゃん、何読んでるの?」
「これ?これはお姉ちゃんの日記だよ」
「へぇ、僕も日記書く!」
「そうだね、施設長に言ってノートを買ってもらおうか」
「うん!」
男の子は顔を輝かせて笑った。
笑顔がとても眩しい。
この子はどうして眼帯をつけているんだろうか。
気になったけれど、
何か深い事情がありそうだったからやめた。
男の子には悪いけれど、私は名前を聞いた。
男の子は嫌な顔も怪訝な顔も見せずに答えてくれた。
男の子は葉山雄介というらしい。