初めまして、大好きな人



大きな声で叫んで部屋へと閉じこもる。


部屋で一人になると涙が溢れてきて、
どうしようもない腹立たしさを抑えきれなくて、
私は持っていたノートを床に叩きつけた。


そう。面倒になったんだ。
こんな訳の分からない病気を抱えている女の子なんて、
面倒に決まってる。


だからわざと、尚央はあそこに来なかったんだよ。


そうとしか思えない。


だとしたら最低。
日記の中の彼は私にあんなことを言って、
あんなことをしたくせに。


大人ならもっと責任を持った言動をとってほしかったよ。


「波留ちゃん。ちょっといいかい?」


しばらくして、ドアがノックされた。
この声は施設長だ。


施設長は私の返事を待っていたけれど、
何も答えない私にしびれを切らしたのか、
息を吸い込む音が聞こえた。


「出てきてほしい。君にお客さんだよ」


お客さん?こんな私に誰が訪ねてくるっていうの?


なかなか出てこない私を外に出すための嘘なんだ。
そんなひねくれた考えしか思いつかなかった。


「誰……」


「榎本さんが来たよ」


「えっ」


榎本って、尚央?
尚央が来たっていうの?
なんで?どうして?
だって彼は私のことを面倒に思って……。


鍵がかかってるわけでもない部屋のドアを
施設長は静かに開けた。


優しく微笑んで、私を見つめる。


私も施設長を見上げた。


「おいで」


魔法にでもかかってしまったみたいに、
施設長に手を引かれると足が勝手に動いて、
私は玄関まで施設長について行った。



外はまだ雨が降っていて、雷まで鳴っていた。


そんな玄関先には、一人の男の人がずぶ濡れで立っていた。


息を切らして、肩ではあはあと呼吸している。


そんな男の人は私を見て、安心したように笑った。


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