恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
一樹は繋いでいた手をほどき、梓の肩を引き寄せた。膝が震えていたため、梓は呆気なくその腕に収まる。足がふらついていたから、かえって助かった。
「……なにをおっしゃっているのか、私にはさっぱりわかりませんが」
友里恵の眉間に三本の縦皺が刻まれる。
「だから、俺の婚約者だって言ってるだろう?」
「ですが、そんな影はみじんもございませんでしたが」
それもそうだろう。なんせ急ごしらえだ。
友里恵は疑いの眼差しを臆せず梓たちに注ぐ。
「そりゃそうだよ。隠していたんだから。というわけで、今夜の見合いパーティーはなし! みなさんには丁重にお帰りいただいてくれ」
一樹はそう言って手で払うような仕草をした。
「佐久間さんは本当に社長とお付き合いをされているの?」
友里恵から痛いほどの強い目で見つめられ、梓がすくみ上がる。
うっかり〝本当は違うんです〟と白状してしまいそうだ。