恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
創立記念パーティーの夜、一樹に手を引かれて客船の中を走ったこと。
初めてのキス。ふたりで一緒に映画を観たこと。
そして、初めて心を通い合わせた夜。
どの場面でも、一樹は梓にとって最高に素敵な恋人だった。
その一樹と梓は今、別れようとしている。
絶対に離れないと思っていたのに、あっさり離れていく自分が信じられない。まるで、一樹がくれた知恵の輪のよう。一度解いてしまえば呆気ない。
こんな運命なら、知らずにいた方がよかった。恋なんて、一生しなくてよかった。
溢れそうになる涙を懸命にこらえ、梓はスツールを下りる。アルコールのせいでふらついた足をなんとか持ちこたえた。
「本当にごめんなさい。失礼します」
深く頭を下げ、最後に一樹の横顔を見る。
焦点の合っていないように見えるその目は、遠く広がる夜景に向けられていた。