恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

母親の店を守りたい一心で梓がその話に乗ったと考えれば、一樹に突然別れを切りだした理由もわかる。あの遠藤を好きだと言った理由も。
父親を亡くした後、懸命に育ててくれた母親を梓は見過ごせなかったはずだ。

(遠藤のやつ、姑息なことを……)

非情な手段をとった遠藤に、一樹は虫唾が走る思いだった。


「社長、いかがいたしましょうか」
「このままにしておくわけにはいかない」


梓も、忍び草のある商店街も。そして遠藤も。


「商店街の会長と、至急アポをとってくれ」


まずは直接聞き取りが必要だ。


「承知いたしました」


友里恵が社長室から出ていくと、一樹は椅子をくるりと反転させて窓の外を眺めた。
夕暮れが近づいた街には、ポツポツと明かりがつき始めている。


「このままで済むと思うなよ」


一樹は握りしめた拳に力を込めた。

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