恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

◇◇◇

遠藤不動産による、みよしの商店街の土地買収に関する噂は本当だった。

友里恵から報告書を受け取った一樹は、その用紙を穴が開くほどに読み込む。

みよしの商店街は、買い回り品や飲食店を中心としており、住宅地と商業地が混在している地域型商店街である。
会員数は、およそ二百名。その約半数が立ち退きに反対しており、その中には梓の母親が経営する忍び草も含まれていた。

駅から徒歩五分圏にあるため、周辺にある住宅地への往来のために人出はそこそこあるが、出店している店への買い回りはそれほど多くない。
一見すると栄えているように見える商店街だが、近年よく言われているように緩やかな衰退をたどっている。立ち退きに賛成している店は、その傾向が顕著なのだろう。

一樹が引っかかるのは、土地買収に関わる諸々が現在ストップしている点だった。計画がとん挫したのか、それともなにか別の理由なのか。

これは憶測の域を出ないが、梓がそこに関係しているのではないかと一樹は考えていた。
計画が止まった時期と、梓が一樹に別れを告げた時期が重なっているのだ。

梓自身を差し出せば、商業ビルの建築を止めてもいい。遠藤は、そんな話を梓に持ちかけたのではないか。

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