恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
自分の髪のハリを少しでも分けてあげられたらいいのにと、梓は思うがそうもいかない。
「イチゴ大福、買ってきたよ」
そう言って袋を手渡すと、多香子はうれしそうに満面の笑みを浮かべる。
「あらぁ、わざわざ悪かったね。ありがとう、梓」
「ううん。このくらい大したことないから。ほしいものがあったら、なんでも言ってね」
多香子はニコニコしながらイチゴ大福の包みを開いた。
梓はベッドサイドに椅子を引き寄せて腰を下ろし、そんな多香子を見つめる。
幼い頃に父を亡くし、母、陽子は忙しい毎日を送っていた。夫とふたりで営んでいた小料理屋をひとりで切り盛りすることになった陽子が、休む間もなく働いたおかげで固定客がつき、現在も店は好調である。
陽子に代わって梓の面倒をみてくれたのが、父方の祖母である多香子だった。祖父は亡くなっていたため、学校から帰ると多香子とふたりでおやつを食べたり、よく一緒に折り紙をして遊んだりしたものだ。
今は、陽子と多香子、そして梓の三人で祖父が遺した一軒家に暮らしている。