恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
◇◇◇
翌日の朝。梓はクローゼットの中にある洋服をかたっぱしから出し、鏡に向かって組み合わせを考えていた。
(休みの日のデートって、なにを着たらいいの?)
誰かに相談したいのはやまやま。でも、おもしろがられるのがわかっているため、仕方なしにあれこれとひとりで悩む。
なにしろ普段からアースカラーや黒っぽいものが多いため、デートという華やいだ印象の洋服を持っていない。鏡の前でどれを合わせても、うーん?と首を傾げるばかりになる。
それも相手が一樹だというのだから、ますます困った状態だ。
社長の隣に並ぶ女性なら、きっとセンスがあって洗練された洋服を着るだろう。残念ながら、梓にそんな洋服はない。
(今から買い物に行って調達する?)
そうとも考えたが、そもそも自分は偽りの婚約者だと思い出した。そこまでする必要はないだろう。
少しでも浮かれた自分が、なんだか憐れな気がした。
さんざん悩んだ挙句、ベージュのニットワンピースを選んだ。ウエストに同素材のベルトが巻かれた、ひざ丈のありきたりなワンピースだ。
これが今の自分にできる、最もデートらしい格好。ベストオブベストである。