堅物社長にグイグイ迫られてます
「それよりもお前はどうするんだ」

ふと御子柴さんの声が聞こえたので視線を彼に向けた。

「まだ雨降ってるのに、あの男に傘を渡しただろ。お前はどうやって帰る気だ」

「それなら大丈夫です。御子柴さんの傘に入れてもらうので」

そう言って、私はちらっとイスの下の御子柴さんの鞄に視線を向けた。そこには一本の折り畳み傘が入っている。

「御子柴さん優しいから、私のこと傘に入れてくれますよね」

パソコン画面を見つめている御子柴さんの顔を覗き込むと、彼の視線が一瞬だけ私を見た。でもまたすぐに逸らされてしまう。

御子柴さんはノートパソコンの隣に置いているカップへ手を伸ばすと口をつけて中身を喉に流し込んでから口を開く。

「別に俺は誰にでも優しいってわけじゃない」

カップをテーブルに置いた御子柴さんの視線が再び私に向けられる。

「――お前だからだよ」

「え……」

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「惚れてる女に泣きながら助けを求められて放っておける男がいるわけないだろ」

さらっとそう告げると、御子柴さんはノートパソコンをぱたりと閉じる。
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