堅物社長にグイグイ迫られてます
たぶん挨拶に行く途中だったのを引き留められてあの状況になっているのかもしれない。

それにしてもあんなにたくさんの若い女性に囲まれているなんて、御子柴さんって人気者だなぁ。

まぁたしかに御子柴さんは背も高いし端正な顔立ちだし、仕事においても優秀だし、それに大企業の御曹司だし、あのくらいモテて当たり前なのかもしれない。

御子柴さんは取り囲む女性たちに相変わらずの不機嫌な表情を浮かべているけれど、話し掛けられるとしっかりと耳を傾けて一人一人に丁寧に言葉を返している。私の場所からだとその会話内容までは分からないけれど、女性たちに対する御子柴さんの態度が普段の彼よりもすごく優しい気がする。

なんだかいつもの御子柴さんらしくない……。

そう思ったら胸の奥が少しだけきゅっと苦しくなった。

私の知っている御子柴さんといえば常に仏頂面で不機嫌な声で喋る人で。あんな風に愛想なんかふりまくような人じゃないのに。

なんだかモヤモヤしてしまう。

これ以上あんな御子柴さんを見ていたくなくて私はそっと視線をそらした。そしてそんなモヤモヤを取り払うように口を大きく開けてトマトとチーズのカプレーゼを頬張る。すると、

「コホッコホッコホッ……」

すぐ近くで誰かが苦しそうに咳き込む音が聞こえた。振り向くと上品な着物姿の六十代ぐらいの女性が胸のあたりに手を当てて乾いた咳を繰り返している。
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