堅物社長にグイグイ迫られてます
私は御子柴さんの背中にそっと手を回すと上下にさするように優しく撫でた。すると、耳元で御子柴さんの低い声が聞こえた。

「俺さ、実はあのときもお前に助けられたんだ」

「あのとき、ですか?」

いったいどのときだろう?

そう不思議に思っていると、御子柴さんが私を抱き締めたまま話を続ける。

「三年前、お前がうちの事務所の前で求人表のチラシを見てたとき。実はあの日も電話で親父と少し揉めてたんだ。理由はまぁさっきと同じようなことなんだが」

つまりあの日も御子柴さんはお父さんに建築家を辞めて御子柴商事を告げと説得されていたってことかな。

「親父は昔から高圧的で俺を常に自分の思い通りに動かしたいと思う人だった。子供の頃からそれに素直に従ってきたせいか、大人になった今でもあの人に強く言われると思わず体が固まって反論できなくなる」

それは先ほど、お父さんを前にして何も言い返すことができずに握った手をただ震わせていた御子柴さんの様子から十分に伝わってきた。だからあのとき御子柴さんは何も言い返せなかったんだ。
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