堅物社長にグイグイ迫られてます
佐原さんの話によると一年ほど前に依頼されたものの御子柴さんは既に抱えている仕事が多くて断ったそうだ。けれどこの一年間熱心に何度も依頼をされ続けていたらしい。そのたびに御子柴さんは頑なに断っていたけれど二週間ほど前になって突然その依頼を受けた。

そのことに佐原さんは首を傾げていたけれど、私には何となく理由が思い当たった。

二週間前といえば御子柴商事の創立記念パーティーがあった日とちょうど重なる。もしかしたらそのことがきっかけで断り続けていたはずの大規模商業施設の設計の仕事を請けたのかもしれない。

今も御子柴さんは資料とパソコン画面を交互に見比べながら眉間に皺を寄せ難しい表情をしている。時々、目頭を揉む様子に疲れが見てとれる。そういえば昨夜も日付が終わった頃に帰宅して朝も早くに家を出ていた。たぶんほとんど寝ずに仕事をしていると思う。

「ただいま」

そのとき佐原さんも事務所に戻ってきた。私と目が合うと近付いてくる。

「雛子ちゃん。悪いんだけど、このデータの入力頼んでもいいかな?」

佐原さんはカバンから一枚の資料を取り出すと私のデスクに乗せた。

「はい。もちろんです」

「ありがとう。終わったら俺のパソコンにデータを転送しておいてね」

そう言って佐原さんはにっこりと頬笑んだ。

それから佐原さんは自席には戻らず御子柴さんのデスクへと向かった。二人は仕事の話を始めている。難しい専門用語が飛び交う中、私は佐原さんに頼まれたデータを入力するためキーボードを打ち始めた。


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