堅物社長にグイグイ迫られてます
「ああ。辞めるよ」

「でも夢だったんですよね。好きなんですよね」

「好きだよ。――でも諦める」

そう呟いた御子柴さんの表情は相変わらずの無表情でそこからはなにも読み取ることができない。でも、本心で言っていないことくらい私にも分かる。本当は御子柴設計事務所を潰したくないし、建築家の仕事だって続けたいはずなのに。

「残りの依頼はどうするんですか。まだこれからも御子柴さんの設計を待っているお客様もいるんですよ」

「それは、申し訳ないが俺の知り合いの建築士にでも引き継ぐか」

「そんな……。無責任ですよっ!御子柴さんらしくないです。みなさん御子柴さんに設計をしてほしくて依頼してきた方たちなんですよ」

そう問い詰めると「仕方ないだろっ!」と御子柴さんにしては珍しく感情を表に出した強い言葉が返ってきた。

「どの道、このままだと俺の事務所は親父に潰されるしかないんだ」

「でもまだそうと決まったわけじゃないです」

「決まってるんだよ。親父には敵わない」

御子柴さんはおぼつかない足取りでソファまで移動すると、すとんと力が抜けるように腰を下ろして頭を抱えてしまった。

こんなに弱々しい姿を見せる御子柴さんに私は掛ける言葉を完全に失ってしまう。

いつも強気で自信家の御子柴さんがお父さんにそこまで追い込まれていたなんて……。
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