堅物社長にグイグイ迫られてます
「ひどいです。御子柴さん」

震える唇で何とか声を絞り出すと、瞳にたまっていた涙が一滴頬を伝っていく。すると御子柴さんはハッと我に返ったような表情を私に向けた。

「すまない」

つい先ほどまで私の唇に荒く口付けていた御子柴さんの唇がゆっくりそう告げる。

これ以上この場にいたくなくて、私は御子柴さんに背中を向けると逃げるようにリビングを飛び出した。

「百瀬」

名前を呼ばれたけれど振り返ることなく急いで自室へと向かう。

パタンと勢いよく扉を閉めるとベッドに飛び込み枕に顔を押し付けた。そしてさっきのキスを思い出す。

ほんの一瞬の出来事だったけれどまだ鮮明に思い出せる。それに私の唇にはまだ御子柴さんの熱が残っている。

御子柴さんらしくない行為に私の心はだいぶ傷付いた。でもきっと私も御子柴さんの心を傷付けた。それがあの乱暴なキスに繋がったんだと思う。

私が、御子柴さんの気持ちも考えずに園田さんとの結婚をすすめてしまったから。そのせいで御子柴さんを怒らせて傷つけて……。

どうして私はいつもこうなんだろう。

子供の頃からうっかりミスが多くてドジばかりで。深く考えず目先のことだけしか見られない。

今回もそんな自分の性格でこんなことになってしまった。

私はそんな自分が大嫌いだ――――


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