堅物社長にグイグイ迫られてます
御子柴さんは、私の荷物を運ぶのを手伝うためにここまで付いてきてくれたのだと思っていた。でも本当は私のことを心配して一緒に来てくれたんだ。

仕事中はとにかく厳しくてよく怒るし、普段は口数が少ないのでぶっきらぼうで冷たい人に思えてしまう御子柴さんだけれど、突然のそんなさり気無いやさしさを見せられて胸がジンと熱くなる。

「私、中へ入ります」

御子紫さんの言葉に励まされた私はとうとう覚悟を決めた。

だって私は何も悪くない。悪いのは浮気をした俊君なんだから、私は毅然とした態度を取っていないと。と、気を引き締めてインターフォンを自分で押そうと手を伸ばした、そのときだった。

「……雛子」

玄関の扉が内側からゆっくりと開き、少しだけ開いた隙間から顔を覗かせたのは俊君だった。

もしかしたら玄関の外での私たちのやり取りが部屋の中まで聞こえたのかもしれない。

「あ、えっと、おはよう」

俊君と目があった瞬間、さっきまでの奮い立った気持ちがぐらぐらと崩れてしまった。

やっぱりムリだ。俊君の顔を見ただけでいろんな感情が押し寄せてくる。
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