新月の夜はあなたを探しに



 けれど、自分を助けてくれた彼女がどんなってしまったのか。
 それをしっかりと見届ける義務があると、葵音は思った。


 「黒葉………。やっと会えたな。会いに来るのが遅くなって悪かった。」

 届くはずもない声。
 けれど、彼女と話をしたかった。
 彼女に触れるように優しくガラスに触れると、とても冷たかった。きっと、今の彼女の体もそうなのだろうと思うと、胸が締め付けらる思いがした。


 「おまえさ、急に俺の事押すからビックリしたよ。しかも、バイクにはねられるし………。そして、お前は目の前からいなくなるし。」
 

 目の奥が熱くなる。
 恋人の前で泣くなんて、男失格なのかもしれない。
 けれど、今は眠っているなら………彼女は許してくれるだろうか。

 いや、きっと起きていたとしても黒葉は自分を抱きしめて慰めてくれるはずだ。

 そんな事を思ったら、我慢していた涙が次々に溢れてきた。

 なんで、俺なんかを守ったんだ。
 どうして相談してくれなかったんだ。
 そんな思いが頭の中に浮かんでくる。

 けれど、そんな事は黒葉が起きたときにしっかりと聞いて、そして起こってやればいいんだ。

 今、黒葉に伝えたい事はひとつだけだった。




 「黒葉………俺を守ってくれて、ありがとう。」


 ボロボロと涙を流しながら、ガラスを引っ掻くようにしながら手を強く握る。
 泣いていても、目を閉じずに黒葉を見ていたかった。

 
 「次は、俺が黒葉を守るから………だから、早く目をさましてくれ。」



 吐き出すように嗚咽混じりの言葉は小さくなっていった。
 


 葵音の言葉が彼女には届いたのか。
 それは、黒葉にしかわからない事だった。





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