うたた寝
僕はまた歩き始めた。彼女は黙って僕の隣を歩く。
何分かすると数字が目印のコンビニが見えてきて、そこで毎日待ち合わせをしている彼の姿も言わずもながな見えてくる。彼は僕達に気付くとイヤホンを外して、微笑んで口を開く。
「おはよう」
「おはよーー!!」
彼女は僕との気まずい空気から逃げるように彼のもとに足早に駆け寄る。彼と視線が合う。彼の目もとが緩んで、顔をほころばせた。彼の屈託ない爽やかな笑顔は、彼の性格を語るに十分なほどの人のよさが滲み出ていた。
「おはよう」
「…おはよ」
僕が挨拶を返すと、彼は満足げに笑う。そして、僕から彼女に視線を緩やかに移して、ぴょこりと変に飛び出している彼女の前髪に触る。彼女は彼に触られるのが嬉しいそうだった。
「寝癖、ついてる。寝坊?」
「そうなの!学校ついたら、直そうって思って」
「家で直してきたらよかっただろ」
「それじゃあ、一緒に学校行けないじゃん」
「俺、それくらい待つって」
「私の寝癖で朝練遅刻させるわけにもいかないよ。大会あとちょっとなんでしょ?」
「そっか、ありがとう」
照れてるような嬉しくてにらやけているような色んな感情が混ざったような表情の彼と、そんな彼を見て幸せそうに笑う彼女と、二人のやり取りをただ見ているだけの僕。僕はこの辛い光景を見なくてはいけない理由があるとしたら罰と戒めだ。