墜落的トキシック


うんうん、と頷きながら聞いていると、ふいに侑吏くんが何かを書き込むために前のめりになって。


こつん。


身を乗り出していた私の額と、前のめりになった侑吏くんの額がぶつかった音。

直後、鈍い痛みが走った。




「……近い」



つぶやいた侑吏くんの声が、思っていたよりも近くで響いて。
驚いて顔を上げると。



「っ!」



ちょうど視界に侑吏くんの泣きぼくろが入ってくる。

侑吏くんのその小さなほくろは、近づかないと見えない。



────ってことは、だよ。



鼻先がぶつかりそうな距離にある侑吏くんの整った顔。
思わず息をのんだ。


そのわずか数秒後。




「った!」




私の口からまぬけな悲鳴が上がる。
のけぞりながら、額にじんわり広がる痛みの元凶をにらみつけた。



「何するの!?」



思いっきりデコピンしてきた侑吏くん。
彼は悪びれず、涼しげな顔をしている。


そして、デコピンによって図らずとも離れた距離。その開いた空間を一瞥して。




「……ガード堅いくせに、パーソナルスペースには簡単にすべり込んでくるんだな」




早口で小さく、侑吏くんがつぶやいた言葉はうまく聞き取れなかった。




「何?」

「んー?花乃って甘い匂いすんねって」

「……は?」



今、そんな話になる流れだった?
けげんに顔をしかめた私を無視して侑吏くんは言葉を重ねる。



「香水?」

「……や、違う、けど」

「ふーん。……くせになりそう」




冗談っぽく笑って、ガタン、と席を立った侑吏くん。


思わず引きとめる。
だって、まだ勉強会の途中。



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